君を守る・2



派遣先で怪我をしてしばらく帰ってこれなかったティアマトさんは戻ってきた時、若い男の人と一緒だった。

柔和な面差し。
動きやすそうとはいえない白いローブ。
スリムというよりはひょろっとしているだけのような体格。
年齢は…オスカーお兄ちゃんより、少し若いくらいかな?

とにかく、この傭兵団の砦の中にいるにはあまりにも不自然な雰囲気で、僕はついにティアマトさんは人さらいでもしてきたのかと思ったんだ。
ティアマトさんはいつも、砦内の雑用をする手が足りない、と、こぼしていたからね。

無遠慮にしげしげとその男の人を見ていると、ティアマトさんは脱いだ甲冑を僕に手渡して言った。
「ヨファ、悪いんだけど、これ、私の部屋にしまっておいてくれる?私は団長に話があるから。」
そうして、白い服の男の人の背中を押すようにして、団長の部屋に行ってしまった。

その次の朝のことだ。
その人が正式にこの傭兵団に入団したのだという発表があったのは。

「キルロイです。よろしくお願いします。」
その人はみんなの前で、緊張したぎこちない笑顔を作って、これ以上ないくらい深々と頭を下げた。






さて。
それからというもの、僕とミストちゃんは有頂天だった。

なにしろ、ここは傭兵が拠点としている砦なのだ。
子供は僕とミストちゃんだけ。
大人は任務に出ているか、戦いの訓練をしているか、武器の手入れをしているかで忙しい。

ようするに、遊び相手に飢えていた。

そこにこのキルロイさんがやってきた。

キルロイさんは大人で、ちゃんとした団員なのに、訓練も武器の手入れもしていない。
ぼちぼちといった感じで砦内の雑用をしているか、台所のかまどの前で鍋の番をしているくらいだ。

その姿がとても暇そうだったので、僕とミストちゃんは、この人なら僕たちと遊んでくれるんじゃないかと思った。

興味深々で声をかけてみると、思ったとおり、キルロイさんはとても話しやすい人だった。
僕らが子供の無遠慮さでいろいろ質問するのを、面倒くさがるそぶりもみせずに、いちいち丁寧に笑顔で答えてくれた。

キルロイさんは杖使いなんだそうだ。

ティアマトさんが怪我をした時、近くの自分の村まで連れ帰って治療してくれたらしい。
そして、杖が使えるということで、ティアマトさんがこの傭兵団にスカウトしたのだ。
「でも、本当は半信半疑でついてきたんだよ。…僕のことは、ティアマトさんの一存だったからね。ここに来てはじめてグレイル団長に話を通したんだけど、雇ってもらえて本当に良かった。」
そう言って、キルロイさんはにこりと笑った。

そうか。
この人は回復の杖を使うところをみこまれたのか。
どう見たって、武器を振り回して戦う人には見えなかったから、僕とミストちゃんはふむふむと頷いて納得した。






僕とミストちゃんとキルロイさんは、それからの数日を一緒に過ごした。

キルロイさんは人当たりがよくて、傭兵団のみんなともすぐにうちとけたけど、僕たちが彼にかまってほしがっているのに気付いてか、なるべく僕たちと時間を過ごすようにしてくれていたみたいだ。

僕は、新しい遊び仲間にすっかり夢中になっていた。

なにしろキルロイさんはやさしい。

傭兵特有のぴりぴりした神経質さがないし、他の人たちみたいに「今忙しいから後でな」なんてことも言わない。
文句ひとつ言わないでにこにこと僕に付き合ってくれる。

僕の見つけた森の中の小さな花畑や、秘密の湧き水の出る場所の話をしたら、目を輝かせて感心してくれたので、あの場所は僕とミストちゃんだけの秘密の場所だけど、キルロイさんになら見せてあげてもいいかなって気になったんだ。

「ね、良かったら明日行こうよ!僕と、キルロイさんと、ミストちゃんの三人でさ。お弁当を持って!」
僕はキルロイさんの手をつかんで、「今すぐ行こう」と言わんばかりの勢いでひっぱった。
でも、キルロイさんはその場から動かなかった。
「?」
とても素敵な計画を思いついたと興奮していた僕の目に、キルロイさんの少し困った顔が映る。
「…行ってみたいけど…そこはもしかして、遠いんじゃないかな?」
「うん、まあ、少し遠いかな?でもそれほどじゃないよ。朝出たら、夕方には帰ってこれるよ。」
「・・・・」
キルロイさんの顔が、さっきよりもう少し困った様子になった。
「ごめん、やっぱりやめておくよ。僕はいいから、ミストちゃんと二人で行っておいで。」
「どうして!?」
僕はキルロイさんの白いローブの袖をひっぱった。
「キルロイさんと一緒じゃなきゃ意味ないよ!僕はキルロイさんに見せたいんだ、本当に綺麗なところなんだよ!」

「ヨファ!」

厳しい声がして、僕は身をすくませた。
いつの間にか、そばにティアマトさんが立っていた。
…少し、怖い顔をしている。

「無理言っちゃだめよ。キルロイにはキルロイの仕事があるんだから。あっちこっち引っ張り回しちゃダメなの。」
そう言って、やんわりと僕の手をキルロイさんのローブから引き離した。
「キルロイ。」
ティアマトさんがキルロイさんの肩に手を置く。
「仕事が入ったの。明日出発よ。」
「…!はい!」
キルロイさんの体が、緊張して固くなるのがわかった。
「あなたは持って行くものはライブの杖くらいしかないだろうけど…早めに荷物をまとめて、今日はしっかり休んでおいてちょうだい。」
ティアマトさんが、キルロイさんの目をじっと見る。
キルロイさんもティアマトさんの目をみて、そして、こっくりと頷いた。

ティアマトさんが行ってしまった後、しばらく放心していたようだったけど、キルロイさんはいきなり僕の両肩をつかんで言った。
「ヨファ!初仕事だ!」
「・・・・・・」
「ああ、どうしよう…。いや、どうしようじゃないよね、僕は傭兵になったんだから。でも戦いの場に出るのは初めてなんだよ。頑張らなくちゃ、みんなに迷惑かけないように…」
キルロイさんは少し混乱しているようで、意味があるようでないようなことを言い続けた。
僕が明日遠出しようと誘ったことなどもうすっかり頭から抜けているようで、初めての仕事への期待と不安でいっぱいになっている。
まあ、別に覚えてたって、仕事入っちゃったんならもう行けないけどね。
「キルロイさん。」
僕はキルロイさんの手を、ぎゅっと握った。
「初仕事決定、おめでとう。僕はここで留守番だけど、キルロイさんが怪我とかしないよう、お祈りしてるよ。」
悔しかったので、半分あてつけるように、不機嫌に言ってやった。
「あ、うん。」
それでキルロイさんは少し落ち着いたみたいだ。
僕の言葉の裏の悪意には気付かずに。

じゃあ、もう、支度しないとね。今日はもう遊べないね。
そう言って僕はキルロイさんと別れた。

明日出発するみんなの手伝いをしなくちゃいけないんだけど、なんとなくそんな気分になれない。

いそいそと去っていったキルロイさんの後姿を思い出す。

あの人も、結局ほかの大人といっしょなのかな。
戦うことが一番大事なのかな。
戦えない僕は、いつも、いつも、置いていかれてしまうんだ。

仕事を始めたら、キルロイさんはきっと僕のことなんて忘れてしまうだろう。
僕みたいな子供じゃなくて、もっと歳の近い人と一緒にいるほうが楽しいかもしれない。

「…せっかく仲良くなれたのにな。」
僕はちいさなため息をついた。

今更、キルロイさんのあの優しい笑顔や、一緒にいるときの安心感を失うのは、とても惜しくて寂しかった。

でも、仕方ないのかもしれない。

僕は、「そばにいてよ」と言える権利もない、何も出来ない弱い子供だから。






僕に出来ることはみんなの無事を祈ることくらいで、特に初仕事のキルロイさんの無事を祈っておこうと思っていたのだけれど。
その朝、キルロイさんはみんなと一緒には出かけなかった。

と、いうか、出かけられなかった。

キルロイさんは熱を出して、起きられなかったのだ。

「ああ、いいのいいの。そのまま寝ていて。」
額に手をあてるまでもなく、見るからに熱っぽいキルロイさんを手で制して、ティアマトさんは言った。
「大丈夫よ。今まで杖なしでもなんとかやってきたんだから。今回だってなんとかしてみせるわ。」
「…すみません…」
キルロイさんは今にも消え入りそうな声で謝った。
本当はキルロイさんはみんなと一緒に行くつもりだったんだ。
でも、「調子悪いんです」って言わなくっても、その顔色じゃ、バレバレだった。
大丈夫ですから、行けますから、と言い張るキルロイさんを説き伏せ、今、ベッドに押し込んだところだった。
キルロイさんは優しい顔をして案外頑固だったけど、「病人が戦場に出るのは命取り、他の団員にも迷惑だ」の一言で、しゅんとして静かになった。
「気にしないで。私たちはあなたのことを理解したうえで仲間に迎えたんだから。それに、あなたが砦に残ってくれると、ミストとヨファが安心するわ。いつも子供だけ残していくのは心配だったの。」
ティアマトさんはキルロイさんを元気付けるように、にっこりと笑った。
「じゃあ、行ってくるわね。帰ってきたときには元気な顔を見せて。」

どうしてだろう。
ティアマトさんは笑っている。
いつも体調管理も仕事のひとつ!と言って、誰か風邪でもひこうものなら労わるどころか頭ごなしにどなりつけるくらいなのに。
なのに、今のティアマトさんは怒るどころか、キルロイさんに気を使っているように見えるくらいだった。

どうして?
キルロイさんは特別なの?
ティアマトさんが自ら連れてきた人だから?
僕は答えを求めるように、隣に立っていたオスカーお兄ちゃんの顔を覗き込んだ。

ねえ、と口を開きかけたけど、オスカーお兄ちゃんの手がぽんと僕の頭に乗せられたので、僕は言葉を飲み込んだ。
オスカーお兄ちゃんは糸のような細い目を、さらに細めて優しく言った。
「大人には大人の事情があるんだよ。詮索しちゃ、いけない。」

オトナノジジョウ…

それだけで、僕はもうなにも聞けなくなる。
なんとなくもやもやする気持ちを抑え、僕はミストちゃんとみんなを見送るために砦の門へ向かった。






団員のいなくなった砦の中は、がらんとしている。
誰もいない部屋の中は、いつもより暗く感じられた。

「今のうちに、お掃除しちゃおうか。」

抑揚のない声で、ミストちゃんが言った。
ミストちゃんも元気がない。

僕はこの時間が嫌いだ。
砦に残されて、みんなは無事だろうかとか怪我していないだろうかとか、やりきれない不安に胸が押しつぶされそうになる。
僕もミストちゃんも急に口数がすくなくなって、ただ黙々と砦の掃除をしたり、大量の洗濯をしたりして時間をつぶすのが常だった。

「・・・・・・」

ふと、思い出した。
今日は、二人きりじゃないんだ。

キルロイさんがいた。
部屋で寝ているからここにはいないけど、そうだ、僕とミストちゃんの二人きりじゃない。

みんなのことが心配なのは変わらなかったけど、なんとなく気が紛れた。
不安がっている場合じゃない。
戦うことはできないけれど、僕にだってできる仕事はあるんだ。

…とりあえず、病気の人のお世話ってどうやるのかな?






僕は自分が風邪をひいた時のことを思い出しながら、何をしたらいいのかを考えてみた。
水を張った桶とか、濡れ手ぬぐいとか?
他になにかしてほしいことはある?と聞きに行くと、キルロイさんは「何もしなくていいよ、ごめんね」と、えらく恐縮していた。

このくらいは本当はなんでもないんだよ、とキルロイさんが言うように、実際そんな死んでしまいそうなほど高熱なわけでもないし、枕元でずっと見ていられても落ち着かないかな?と思って、僕は食事の支度をするために厨房に向かった。

病気の人に重たい食事はだめよ、とミストちゃんが言うので、僕たちはお粥をつくってみることにした。
そういえば病人食なんて作ったことがない。
なにしろ、大怪我で体中包帯だらけでも、やれ「肉が食いたい。いや、魚だ」とやかましい、頑丈な人間ぞろいだったから。

ああでもない、こうでもないと試行錯誤しながらお粥をつくるのは楽しかった。
つい、兄たち傭兵団のみんなが危険な任務に向かった、ということを忘れてしまうほどだった。
レシピもなにもなかったけれど、自分が昔食べたものに近いものができたときは、ミストちゃんと顔を見合わせて会心の笑みを交わしたものだ。

僕とミストちゃんは、キルロイさんの部屋までお粥を運んだ。
「キルロイさん!おなかすいてない!?」
『大人の部屋に入るときには必ずノックをするもんだ』と厳しくシノンさんに言われていたけど、初めて挑戦したお粥の出来がよかったもので、ついノックを忘れて部屋のドアをいきおいよく開けてしまった。

僕とミストちゃんで、ごはんを作ったんだ。
なかなか上手にできたんだよ。
キルロイさんの口に合えばいいんだけど…

そう言おうと思ったんだ。

でも、息を飲む音が聞こえて、ベッドの上の人が身をすくませるのがわかった時、僕の言葉は口の中で消えてしまった。

「・・・・・・・・・・・」

僕とキルロイさんは、びっくりして固まってしまっていた。
かちゃん、と、音がした。ミストちゃんが持っていたお盆から、スプーンが落ちた音だ。

凍り付いていた時間が再び流れ出した。
僕たちは我に返った。

「ご、ごめん!」
キルロイさんは慌てたように頭から毛布をかぶった。
「今はちょっと…一人になりたいから…。本当に、ごめんね。」
「う、うん…」
キルロイさんの声は、少し震えていた。
ちょっとていいから味をみてよ、と言えるはずもなく、僕たちは気まずい雰囲気のまま部屋を出て、そっとドアを閉じた。
「どうして「ごめん」ってキルロイさんが謝るのかなぁ。」
ミストちゃんが少し悲しそうに呟いた。
「そうだね。」
どっちかといえば、謝るのはノックもせずにドアを開けてしまった僕たちのほうなんだけど。
「悪いとこ、見ちゃった。」
ミストちゃんが言う。
「ね…キルロイさん、あれ、泣いてたよね…?」
「そうだね…」
僕たちはそれっきり黙って、まだ熱いお粥のこ鍋を持って、とぼとぼと厨房へと戻っていった。

 




ミストちゃんがそのとき何を思っていたのかはわからない。
僕は僕で、頭の中がぐるぐるするのを整理するので一生懸命だった。
なにしろ僕の周りは「猛者」と呼ばれるような大人の人ばかりがそろっていて。
弱音を吐く人もいなけりゃ、ましてやあんな風に涙をぽろぼろ流して泣く人など見たこともなかったのだ。
ドキンドキンと動悸がとまらない。

ごめんね、とキルロイさんは言った。
でも、本当は、一番見られたくなかったところを僕たちが見てしまったのかもしれないのに。

でも、あの人は自分が悪いと言って、謝るんだ。






あの時は嫌な思いをさせちゃってごめんね、と、起き出してこれるくらい元気になったキルロイさんは言った。

「僕は本当に自分が情けなかったんだ。」
キルロイさんは、今まで僕たちに話していなかった自分の身体のことを、ぽつりぽつりと語ってくれた。
「生まれたときから体が弱くて、『普通』っていわれていることのほとんどが、僕にはこなすことができなかったんだ。子供のころよりは少し丈夫になったものの、満足に働けるかといえばまだまだで…僕は自分の体が情けなくて、悔しくて…だから、この傭兵団に入らないかと言ってもらえたときは、とても嬉しかった。」

仕事ができるできない以前に、やとってくれるところすらなかった故郷。
そこを出て、自分を知る者のいない新しい場所で、「できそこない」なんて言われずに、普通に仕事をして暮らしていけたら…

けれど、それは当たり前だけど幻想に過ぎなかったことを思い知らされる。

病弱だと知られていないからって、その事実が消えてなくなるわけでなし。
「人並み」「普通」に振舞おうとして、少しずつ無理が溜まっていたことにも、うすうす気付いていた。
そして、よりによって、遠征当日に発熱。

ああ、それで。
一人でこっそり泣いていたんだ。
思うようにならない自分の体が、悔しかったから。

キルロイさんは最後に、一緒にヨファの花畑に行けなくてごめんね、と謝った。

今なら僕にもわかる。
キルロイさんは本当は僕と一緒に行きたかったんだってこと。
でも、そんなことで体力を削って仕事に差し支えることになってはいけないと思ったんだろう。
ここには、遊びに来ているんじゃないんだから。
「ううん、いいんだ。」
僕は首を振った。
「じゃあ、さ。僕、キルロイさんにお花を摘んできてあげるよ。とっても綺麗に咲くんだ。」

「ありがとう。」
キルロイさんがふわりと笑った。
まるで、その人自身が花のように。
とてもきれいで。とても優しくて。

僕はただ、その笑顔にみとれていた。






程なくして、ミストちゃんはキルロイさんに杖の使い方をならいはじめた。

「ヨファはいいの?一緒にならったら?」
と、ミストちゃんに訊かれた。
「いいんだ。僕は、こっちをやり始めたから。」
僕は弓を射る真似をしてみせる。
「ええ?どうして弓なの?」
「内緒!」
僕は笑って走り出した。
今からシノンさんに弓を教えてもらうのだ。

「なんで今更弓なんだ?お前、兄貴に槍とか斧とか教わってたろ。」
そう言って、不機嫌そうに眉をしかめたシノンさんにも訊かれた。
たしかに、僕は兄の武器を持たせてもらったことがある。
…正直、僕にはあんまり向いていないと思った。
でも、兄たちのようにああいう武器で戦うことになるんだろうなあと漠然と思っていた。

けど、違うんだ。
僕はなんとなくじゃなくって、自分の意思で決めるべきだったんだ。
「僕は、弓がいい。ほんとはずっとシノンさんみたいになりたいって思ってたんだ。」
「ばっ、バカヤロ。」
シノンさんは赤くなってそっぽを向いてしまった。

それから、時間があると僕は弓を練習し、ときどきシノンさんに見てもらっていた。

…誰にも言っていないけど、本当は弓を使いたかったもうひとつの理由がある。

弓なら。

キルロイさんのとなりで戦えるから。

最前線に立って切り込んでいくのも、大切な役割だ。
でも僕は、それよりももっと、僕の大切な人を僕の隣で守っていたい。

普通の生活、人並みの健康に憧れて、寂しそうに笑っていたキルロイさん。

僕はとても恥ずかしかった。
何の病気もなく元気な体をもっているのに、「子供だから」と自分に理由をつけて、なにもしないでいた自分が。






キルロイさんは時々寝込みつつも、何度かみんなと遠征に出かけた。

帰ってきたらお約束のように2、3日床に伏せ、回復すると手紙を書いていた。
「誰に出すの?」と訊いたら、キルロイさんは「両親に。」と嬉しそうに教えてくれた。

故郷の両親に、仕送りをしているのだという。

まともに働けるのは僕しかいないから、と、あんまりまともに働けそうにない細い体で、キルロイさんは戦場に出て行く。

ティアマトさんがキルロイさんに初めて会ったとき、ティアマトさんはひどい怪我で瀕死の状態だった。
キルロイさんは村のみんなの反対を押し切って、村の共有財産であるライブの杖を「よそ者」であるティアマトさんのために使った。
それで、もう、村にはいられなくなった。
…そういう「オトナノジジョウ」を知ったのも、そのころだ。




そして、僕はますます決心を固める。

強くならなくちゃ。







あの、切ないまでに優しい人を、となりで守っていたいから。





END


いろいろと捏造ですが、「キルロイさんが傭兵団にやってきた!」の巻です。
ただエピソードを連ねただけで、「だからなんなの?」チックな出来ですが、まあ、次回への布石…(←またかよ!)



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